【本】席を譲るタイミングで困るひと、読んでみて/『あのひとは蜘蛛を潰せない』
読んだ。
彩瀬まる『あのひとは蜘蛛を潰せない』
彩瀬まるさんの作品、ずっと読んでみたいと思ってたのになかなか読めずで、やっと読めた。
印象に残ったところがあるので引用します。
「店長は、電車でお年寄りに席をゆずるタイミングで困るタイプでしょう。俺はね、そういうややこしいこと考えるのイヤだから、はじめっから立ってるんです。どんなに席が空いてても、絶対に座らない。でも世の中がそういう人間ばっかになったら、誰もお互いにしゃべんなくて、野垂れ死にも増えて、たぶんうまく行かないんだと思いますよ」(引用:210頁)
店長っていうのが主人公で、チェーン店の薬局で働いてて、その主人公が一緒に働いているアルバイトさんに言われた言葉。
主人公は20代後半の女性で、ちょっとだけ家族に問題があるんだけどそれなりに不自由なく生きてきた感じの人。ただ、足元がしっかりしてない、というか、軸がなくてゆらゆらしてる、というか。そんな主人公がちょっと一歩踏み出したんだけどそれがうまくいかなくて、それを見てたアルバイトさんがかけた言葉です。
これね、わたし、「ああ、わかる」って思って。それと同時に、「ああ、それでいいんだ」とも思って。
わたしも電車で席を譲るタイミングでものすごく迷うんですよ。譲るのがいや、っていうんじゃなくて、声かけていいのかな、断られたらやだな、声に気付いてくれなかったら恥ずかしいな、とかで。いい歳して、って感じなんだけど。
それで、そういう悩みを話すと、やっぱりそうやって迷うのがいやだからずっと立ってるってひとが結構いる。
ほんと、迷うなら立ってればいいんですよね、最初から。それが正しい気もするし、それが正しいっていう「風潮」もある気がする。でも、わたし座りたいんですよ、空いてたら。座りたい、座る、譲りたい、迷う、じゃあ立ってれば?、でも座りたい。
そういうの、自分のものすごい弱いところだと思ってた。座りたい欲と、譲りたい気持ちと、他人を気にする卑しさと、それらの葛藤。その葛藤を許せない自分の弱さ。
そこまで深く考える問題じゃないんですけど。でもそういう思いがずっとあって。
だからこれを読んだとき、「タイミングに困りながらもお年寄りに声をかける」ってうのが、ちゃんと社会の秩序の一部になってるんだって思った。自分のしてることは、それはそれで機能しるんだって思った。
ピンポイントでひとつのシーンを取り上げましたが、そういう、些細な共感できることが散りばめられているお話です。
自分の行動、発言が正しかったのか、簡単にはわからない。「これは正しかったんだ」って自分で決めちゃうことも難しい。そういうのを「自分の弱さ」だと思ってるひと、その問題が解決するわけじゃないけど、ちょっと勇気がもらえたりするかも。ぜひ読んでみてください。